皇后陛下のIBBYにおけるお言葉など

第26回IBBYニューデリー大会基調講演

https://archive.fo/jlyP2

生まれて以来,人は自分と周囲との間に,一つ一つ橋をかけ,人とも,物ともつながりを深め,それを自分の世界として生きています。この橋がかからなかったり,かけても橋としての機能を果たさなかったり,時として橋をかける意志を失った時,人は孤立し,平和を失います。この橋は外に向かうだけでなく,内にも向かい,自分と自分自身との間にも絶えずかけ続けられ,本当の自分を発見し,自己の確立をうながしていくように思います。

まだ小さな子供であった時に,一匹のでんでん虫の話を聞かせてもらったことがありました。不確かな記憶ですので,今,恐らくはそのお話の元はこれではないかと思われる,新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」にそってお話いたします。そのでんでん虫は,ある日突然,自分の背中の殻に,悲しみが一杯つまっていることに気付き,友達を訪(たず)ね,もう生きていけないのではないか,と自分の背負っている不幸を話します。

今思うのですが,一国の神話や伝説は,正確な史実ではないかもしれませんが,不思議とその民族を象徴します。これに民話の世界を加えると,それぞれの国や地域の人々が,どのような自然観や生死観を持っていたか,何を尊び,何を恐れたか,どのような想像力を持っていたか等が,うっすらとですが感じられます。


国際児童図書評議会IBBY)創立50周年記念大会

https://archive.fo/Nq1YM

1998年,IBBYニューデリー大会における基調講演を求められました。大会のテーマは「子どもの本を通しての平和」で,私は第二次大戦の末期,小学生として疎開していた時期の読書の思い出をお話しいたしました。

身近にほとんど本を持たなかったこの時期,私が手にすることの出来た本はわずか4,5冊にすぎませんでしたが,その中の1冊である日本の神話や伝説の本は,非常にぼんやりとではありましたが,私に自分が民族の歴史の先端で過去と共に生きている感覚を与え,私に自分の帰属するところを自覚させました。この事は後に私が他国を知ろうとする時,まずその国に伝わる神話や伝説,民話等に関心を持つという,楽しい他国理解への道を作りました。